歌の呼吸法 一つの考え方

ボイストレーナーのJUNです。

これまた、議論の絶えないテーマです。

ズバリ呼吸法について。

ですが、少なくとも腹から声は出ないし、息は肺にしか入らないわけですから、そういった次元での話しではないです。

私が個人的に思うのは、歌う上で呼吸法不要論者であれ、呼吸法至上主義者であれ、歌う事と感情との関係に触れている人が少ない印象だという事です。

歌う事と感情の関係

呼吸法不要論者の立場の主張は、発声のメカニズムが機能すれば、意識せずとも呼吸も自然に働くというもの。

呼吸法支持者の立場は、発声のコントロールには呼吸や声の支え方が重要といった主張です。

いずれにしても、発声のトレーニングと、スタイルや表現を身につける作業は別と考えている事に関しては正しいと思っています。

しかし、心からの発露(表現したい本能的な欲求)と発声を結びつける作業について触れている人は少ないように思います。

歌唱のトレーニングにおいて、呼吸について言及されるようになったのは、ヨーロッパで19世紀に入ってからです。

それ以前には訓練の過程において呼吸法はなかったとされています。

一方で表現のトレーニングもやり方によっては型のトレーニングと言えます。

型が心と結びつくのかどうか。

歌が上手く聞こえればそれで良いという人(それも大切な事ですし素晴らしい事です)や、メカニズムが機能している事で自分の心と結びついている感覚の人は問題ないと思いますし、それが理想的です。

もっとも、それを個人のセンスという事だけで安易に片付けてしまうのは違うかなと思います。

喜怒哀楽は呼吸が伴う

人間は感情が表に出る時、呼吸が伴っています。

笑う時、泣く時、怒る時…きっかけがあって、呼吸が影響を受け、声が出ます。

そして、イタリアでは『泣くように』といった発声トレーニングで高音獲得がありますが、(イタリアのみならず泣きのトレーニングは世界各地にあるようです)まさに泣くという行為が喉頭とその周辺の筋肉である口蓋筋や伸展筋、閉鎖筋をバランスよく働かせているという事だと思います。

思わず笑う時や、驚いて声が出るとき、高い声や大きな声になる事がある人いると思います。

そういった、感情に対しての身体の生理的な反応は、歌う事と感情を結びつけること、またテクニックを身につける上でも大切なポイントだと思います。

歌手にはテンションが高い人が多いイメージありませんか?あのテンションの高さは歌う上で必要な要素の1つだと思います。

もちろん一概には言えませんが…

呼吸が声と感情の橋渡し

発声のテクニック的な事、表現したいという本能的な欲求、それらを表裏一体にする橋渡しとなるのが呼吸だと思います。

そういう意味での呼吸訓練は取り組んでも損はないと思います。

息を長く続かせるためとか、大きい声を出すために腹式呼吸の練習や筋トレといった事はゼロとは言わなくとも効果は薄いと思います。

また、歌うために腹筋を鍛え、お腹を固めて歌うのはその上にある胸を固め、胸から繋がる舌が喉頭に引っ張り込まれ力む事で声帯の働きを弱めることに繋がる危険があります。(経験者だからこそ自信を持って言えます…)

懸垂機構を呼吸から刺激できる可能性

フレデリック•フースラーの名著『うたうこと』において、喉頭懸垂機構とそれをトレーニングするアンザッツといったことを明らかにしたことが、今日のボイトレの基礎となり、その功績は多大だと思います。

アンザッツのトレーニングによって、懸垂機構が確立されれば自然と感情とも結びつくという事は理解出来ます。

しかし、フースラーの『うたうこと』の中で呼吸について書かれている内容についても、私自身はとても示唆に富んでいると感じています。

「感情の流出でさえ、呼吸器官と喉頭器官とのあいだに、いろいろと、密接な関係をもち…」(フースラー『うたうこと』より)

声で表現したい事が思うように実現できれば、どのアプローチでも良いし、そのジャンルにおける表現が成立していれば発声の正しさが重要でない場合もあると思います。

しかし、喉頭の筋肉のバランスを整えるトレーニングで、ちょっと上手くいかない、あるいはなんか感情がうまくつながってないともどかしさを感じる時には、呼吸からのアプローチが手がかりになる事はありうると思います。

泣く感覚は伸展筋(裏声)、閉鎖筋(地声)、口蓋筋や喉頭引き下げ筋を働かせてくれます。

また、笑う時も陽気な感じだと口蓋筋を働かせるため軽い声が出しやすくなり、豪快に笑う感じだと引き下げ筋(声量)や閉鎖筋を刺激するため、パワフルボイスを身につけやすいです。

この辺りが喉頭の訓練に加えてテクニックと感情の橋渡しとならないか、より良い形の模索を今後も続けて行きたいテーマの1つにしています。

感情解放練習

嘘っぽく泣いたり、笑ったりしても効果はあると思いますが、息を通常より大きく吸ったり吐いたりする事で、感情をたかぶらせやすくする事が出来ます。

それを声に結びつけると感情がダイレクトに出ている感覚がうまれると思います。

一方で、落ち着いた深い呼吸(ヨガや禅の呼吸がまさにそれだと思います)ならば、身体全体の弛緩と集中力アップに繋がるため、直接的には声に結びつきませんが、間接的には感情を整えて声のコントロールもしやすくなります。

声の高さや大きさが必然になる

呼吸を大きく動かし、息をたくさん吸ったり吐いたりする事で感情に刺激を与えられたならば、最終的に求める表現によってはその息の量は必要無い場合があります。

感情と呼吸と声が結びついた感覚を活かせる事が大切だと思います。

逆にオペラは題材が日常的には無い感情の高ぶりを求められるため、そのまま歌うと声門閉鎖と息が適切ならば声量が上がると思います。

声の大きさはテクニックでコントロール出来ますが、呼吸と結びついた感情は、その感情の幅に応じて声量や音色が自然に現れやすくなると感じます。

その方が自然なのではないかと思うわけです。

横隔神経は頚椎から

また、呼吸法から少しずれますが、横隔膜の神経が首から出ているため、横隔膜をストレッチすると首や肩の緊張が緩み喉頭のコントロールがしやすくなります。

肋骨の内側に向かって指3本くらいで押しながら、押されているお腹は抵抗せず息を吐ききり、吸う時もリラックスしたままです。

3回くらい繰り返すと首と肩周りはかなり緩みます。

呼吸法はボイトレの過程では、メインで扱わなくて良いと考えていますが、呼吸の本来の機能を理解していくならば、トレーニング過程で上手くいかない時の風穴をあけるためには効果が期待出来ると思います。

ぜひ参考にしてみてください。

ボイストレーナー JUN

声に何度も泣かされた過去を持ち
生徒と心から歌う喜びを共有する日々

大手の音楽教室で講師経験後に独立。
入会率と継続率の高い優秀講師としてレッスン手法をセミナーで紹介される。
中学・高校の音楽科教員の経験からレッスンのわかりやすさというところでの評価を受けている。
これまでに、現役シンガー、ボイストレーナー、音大生(音大入試)、オーディション対策など、数多くの人数を指導。また企業からの依頼を受けアーティスト育成も行っている。

レッスンしてきたことのあるジャンル:
J-POP・洋楽・PopRock・ミュージカル・
Classic・民謡(発声指導のみ)

東京都言語聴覚士会準会員・中学高等学校音楽科一種免許保有
修了講義:”Belting &Effect” ”Motor Lerning Theory in Vocaltraning” “Classical Singing” “Collaborative work with Vocal coach and SLP”

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