ボイストレーナーのJUNです。
今回はボイストレーニングの土台部分である発声練習について記事にしてみました。
近年、発声練習のことを発声エクササイズと呼ぶことが多くなってきたので、この記事でも発声エクササイズで統一していきたいと思います。
さて、あなたは発声エクササイズは何のためにあると思いますか?
発声エクササイズの目的
発声エクササイズは、目的をもって正しく使うことで、効果を発揮します。
以下、ざっと大まかな目的を挙げてみます。
・声のウォーミングアップ(歌の練習前、ライブ前など)
・声のクールダウン(歌の練習後、ライブ後など)
・風邪や声の使いすぎなどによる不調の調整やリカバリー
・発声障害等の声の不調の改善
・声を育てていくため(技術の向上)
これらの目的を叶えるために何をどのように行ったら良いでしょうか。
実は、一つの決まった正解があるわけではないのです。
なので、音声に精通したボイストレーナーによるトレーニングが必要になってきます。
当スクールでは、生徒さんがレッスンにきた時の声の状態に応じて必要なエクササイズを組んでいます。
『どこかで聴いた事あるエクササイズだから、とりあえずやっておこう…』は効果が薄いばかりか、悪い癖がついたり、声を痛めることもあります。
高音を出せるようになりたいからと、同じ高さを出す練習ばかりするなんてのは、とっても危険です。
それは疲労したまま運動を続けると怪我をするのと同じです。
代表的なエクササイズを例に
ハリウッド式と呼ばれるSLS(speech level singing)のメソッドから生まれて有名なNayという言葉を用いたエクササイズを例に挙げて、その効果や取り組み方を説明していきます。
NayNay(ネイネイ)エクササイズは声帯の働き方のモードはファルセット(裏声)で出します。
ですが、トレーニングではNayを使ってチェストボイス(地声)からヘッドボイス(芯のある裏声)の間を行ったり来たりして、互いの力を使って拮抗関係を成り立たせていきます。
取り組みの中で声が育つほど低音域でも芯のあるファルセットで出せるようになっていきます。
結果として、チェストボイスとヘッドボイスのパワーバランスが同等となり、互いに手を結んで、声のバランスを安定させ、低音から高音まで一本の声で出していくことができるようになります。
基本はミックスボイスのためのエクササイズとして考えて良いと思います。
Nayは、Nの子音で声帯振動を稼ぎ、ネイザル子音(鼻にかかる子音)で周波数の帯域を上げる、エ母音で声帯を薄くして(高音へドライブしやすく)、イ母音(高い周波数で通りが良くなります。)で共鳴を整える効果があります。
また、喉頭が上がりやすいことで倍音が増幅され、少ない息で声帯の内転と声門下圧のバランスを作り『地声的な声』を作ります。
これがミックスボイス、強い高音を作るための種になります。
裏声でも芯のあるヘッドボイスと言われる質感となり、いわゆる息っぽい裏声のファルセットと違う音色になります。
Nayのエクササイズは声を絞るように出している人には行わない方が良い場合もありますし、敢えて使って働きを良くすることで、絞り出す力みを取り除くことを狙える場合もあります。
また、声を張り上げる人にも効果がありますが、先ず別のエクササイズで張り上げを抑えてからの方が高音獲得に結びつく場合もあります。
鼻声の人には、Nayで声帯の閉鎖を促すことで、改善させられる可能性もあります。
Nayは初学者の段階では、極端に音色を変えて取り組むことで素早い効果を狙いますが、中級者以上になると、より歌唱に近い音色に寄せていくことで、Nayのエクササイズのクウォリティも洗練させていきます。
つまり、Nayのエクササイズ1つとってもやり方や目的は多彩です。
声にとっては極端な動きであるので、やり過ぎると過緊張発声の基にもなりかねません。
そして、このエクササイズは他のエクササイズと組み合わせることで効果がグッと上がります。
このエクササイズを単独でやり続けると声の故障の原因になりかねませんし、自分の声がわからなくなってしまう危険もあります。
Nayの発声はファリンジルエクササイズとも言われ喉頭を狭くしてキンキンした声を作りますが、それとは対照的にフクロウの鳴き声のようにボヤけた声を出すエクササイズもあります。これをフートエクササイズと言います。
ファリンジルエクササイズも、フートエクササイズも極端な音色が出る発声です。
声帯が収まっている喉頭は筋肉や腱で四方に吊られて宙に浮いた軟骨のため自由に動く特性があり、それが偏った動きを招き声に癖がつきやすくなります。
その偏った癖が声の不具合の原因となります。
そのため、ファリンジルエクササイズとフートエクササイズを使って自分の声の中心点を探していくことがボイトレの基本なのです。
いわゆる萌え声や、宝塚の男性役のような低いダンディな声は、キャラクターとして用いることもありますが、そう言った声を出すような場合でも自分の声の中心点がわかっていることで、声の疲労や故障を軽減してくれます。
子音と母音を組み合わせるエクササイズのメリットデメリット
母音に子音を加えるエクササイズは、声道で起こる空気圧が調節しやすくなるため、発声を簡単にしてくれます。
母音だけで歌うことは発声の弱点が出やすく、声のバランスを保つという意味では難易度が上がります。
ヨーロッパでは、SLSのメソッドでよく使われるMumのエクササイズはMの子音で口を閉じるから力みが出ると、批判を受けたそうです。
SLSと共に世界の二大メソッドと言われているところのマスターティーチャーが私が受講したことのある講習の中でそう言っていました。
でも、SLSの目指すところは、発声の難易度を下げて安定した歌唱を簡単に掴みやすくすることを目的としています。
多少の力みがあるなど課題が残るクウォリティでも、まずは高音までミックスボイスで歌える感覚を覚えて、それから段階的に過剰な力みを取り除いて、発声のクウォリティをあげていく、という実際の歌唱に生きる現実的な考え方に基づくものと言えます。
他方、今出せる自分の声を生かして、その中で多彩な表現をしていこうという考え方もあります。
しかし、それでは音域の拡大、ミックスボイスの習得は遠のいてしまいます。
つまり、ボイストレーニングを受けたいと思っている人が、どんな声の特性があり、今何を望んでいるかによると思います。
少なくとも間違ったエクササイズというのはほぼ存在していなくて、エクササイズの用途を理解せず、正しい使われ方がされないことが問題なのだと言えます。
正しく使うには喉頭の動きを出てくる声で判断できる耳が必要となります。
それはやはり経験豊富なボイストレーナーの役割となってきます。
年齢性別、歌唱力の高さに関係なく数多くのトレーニング経験がある当スクールでエクササイズの効果を最大限発揮して最短で自分らしい声を手に入れませんか。
ご興味のある方のお問い合わせお待ちしています!!