ボイストレーナーのJUNです。
今回は、声が壊れるとはどういうことかについて私自身の体験も含めて、書いていきます。
目次
器質性と機能性
声のトラブルを発声障害、もしくは音声障害と呼びますが、大きく2つに分類されます。
器質性発声障害
声帯の見た目に異常があるもの。
声帯ポリープや声帯結節などがこれにあたります。
声の酷使によって起こる疾患もありますが、先天的なことの多い声帯溝症や加齢によって起こる声帯萎縮といった病気もこの分類に入ります。
医療機関で適切な処置が必要になり、場合によって外科的な治療が必要になります。
機能性発声障害
見た目に異常はなく、誤った発声習慣によって起こるとされているもの。
過緊張発声障害、痙攣性発声障害、変声障害などがこの分類に入ります。
言語聴覚士によるリハビリ、ボイストレーナーによるリハビリが行われ、症状や患者の選択によっては外科的な治療も行われます。
医師による診察を受ける場合は、音声外来やボイスクリニック等、声を専門にした医療機関の受診が適切です。
治療の違い
器質性発声障害は、医師の診察を受けて治療方針を決めていきますが、例えば、結節やポリープは一定期間声を使わないことで回復したり、投薬治療、外科手術等、症状にあった正しい治療を行った後に、正しい発声を身につけていくように改善することで、回復と再発の予防ができますが、機能性発声障害は外科的な処置が行われる場合もありますが、治療法が確立されているとは言い切れない現状があります。
治療にあたって共通することは、生活の中でコミュニケーションに支障が出て、仕事や社会生活の質に影響が出ると感じているかどうか、自身や身の回りの感じ方によっても変わってきます。
ボイストレーニングは発声の偏りを改善することで治療後の機能を回復させたり、再発を防ぐことに役立ちます。
機能性発声障害に関しては、私をはじめ音声学的に基づくトレーニングができるボイストレーナーによる治療でも一定の効果を挙げています。
痙攣性発声障害
私自身が経験した機能性発声障害に分類される痙攣性発声障害は、声のジストニアと言われ、声を酷使する職業の人に多いと言われています。歌手、俳優、アナウンサー、教師などです。
声帯の見た目に異常はなく、麻痺が起きているわけでもありません。
人によって症状が出る場面と出ない場面があります。
家族との会話は平気だが、職場で電話に出る時に症状が出る、などと言ったことからも治療にあたってはメンタルとの関係も考えなくてはならないと言えます。
医学的な書籍では10代の後半から症状を訴える人が多く、男女比でいうと女性が多いとされていますが、男性でも症状を発症している方は一定数います。
私の経験
私自身が記憶しているのは、19歳の時に、当時通っていた音楽大学での歌の試験の時に始めて症状が出たことです。
自分でも驚きましたが、今でもその時のことをよく覚えています。
今では、インターネットで情報が手に入りますが、2001年頃の当時はまだネットは普及し始めた頃で、原因もわからず自分の努力不足だと思っていました。
実際努力のベクトルは間違っていたのですが、当時の自分では気づくことができませんでした。
音楽大学の声楽の教員にもそういった知識をもった人が皆無だったことが今考えると恐ろしいことだと思います。
一昔前までは、発声を指導する側の人間が音声に関する最低限の知識もないまま、ご自身の成功体験によってのみ指導することが一般的でした。
心ある指導者たちによってその状況は少しずつ変化をしているのではないかと思います。
今、私自身は声を聴けばすぐに危険な発声は判別できますし、トレーニングによって改善できるのか、医師の診察が必要かの見分けも比較的につけることができます。
当時習っていた大学の歌の先生には、筋トレをとにかくさせられ、身体が疲れ切った状態で歌わされることが多かったです。
そして、よく怒鳴られその度に身体が萎縮していた記憶があります。
指導に疑問をなんとなく感じつつも理由がはっきりしませんでした。
そして、この歳になって、自分が学生時代に腑に落ちなかったことがおかしなことだったということを確信を持てるようにもなりました。
上手くいかないのは体の鍛え方が足りないからだという(先生にも鍛え方が足りないとよく怒られていた)、恐ろしい思考により、鍛えれば鍛えるほど声が出なくなっていきました。
ここで難しいのは、同じようにトレーニングをしたからといって、みんなが同じように発声障害になるとは限らないということです。
筋トレが絶対にダメということでもありません。
問題は、教師が生徒の危険な発声に気づき、その原因が何かを判断でき、的確な助言ができなかったことです。
今思えば、私が習っていた先生に同じく習っていた学生の中に覚えているだけでも私以外に2人同じような症状の人がいました。
同じ先生に習っていて3人も声に異常があること自体が今考えれば異常なことです。
とはいえ、私が発声障害で長らく苦しんだのは、全て教師のせいかというとそうも言い切れないところもあります。
学生時代に、声が思った通りにいかないことや、その他にも悩みで眠れない日々が続き、それで身体が休めず緊張をより高めていったことも悪化させた一因となっていたのではないかと思います。
歌の試験当日は緊張で毎回一睡もできずに望んでいました。
今では本番前に寝ないなどありえないです。
つまり、誤った発声を教わっていただけではなく、生活の中にも症状を悪化させる要因があったように思います。
私が救いだったのは、この症状をなんとしても治したいと必死だったことで、良いトレーナーに出会えたこと、声にとって負担となる生活環境を改善したことで、劇的に改善されて言ったことです。
私の周りの先輩で今でも苦労している方がいて、声に対するバイアスの恐ろしさを感じています。
思い込みというのは、とても恐ろしく、きっと私が手を差し伸べたからどうにかなるわけではない、そう感じています。
そういう思い込みが発声障害を悪化させているケースが多いのではないか。
レッスンをしていて、そう感じる事があります。
痙攣性発声障害を克服したレアキャラなボイストレーナー
痙攣性発声障害を対象としたをトレーニングを行うボイストレーナーは何人かいると思いますが、経験をした上で克服もしているという人は少ないというか、私が知る限り一人くらいしか思い当たりません。
私の発声障害は軽度だったのかというとそうとも言いきれません。
なにしろ、歌うのが文字通り苦しかったのですから。
そして、カフェでコーヒーを注文するのすら声が苦しくなり、ちゃんと声が出るか不安な時期も結構長く続きました。
今考えると信じられないです。
今では、症状はないですが、より柔軟な発声へ日々進化を続けて、どんどん声の自由度が高まり続けています。
声が多少変な感じになったっていいや、っていう気持ちにもなって声への意識はどんどん減って楽になり続けています。
私のこうした経験は同じ症状で悩む人の気持ちを理解するのに役立っていますが、トレーニング当たっては、自分の経験だけに頼ることなく、世界の最新のトレーニング方法をアップデートすることでより良いトレーニングを提供し、回復までの道のりを早めています。
発声障害を克服したあとの未来
私自身はボイストレーナーとして、様々なジャンルのレッスンを行っているので、発声障害専門というわけではありません。
でもレッスンを行っていると発声障害を克服するトレーニングに比べ、高音が出るようになりたい、とか、ミックスボイスを身につけたい、といったトレーニングの方がはるかに簡単に思えてきます。
発声障害のトレーニングはそれくらい難しいことではありますが、この理解されにくい病気を一人で悩むことなく、声が自由になることで人と話すことが楽しくなったり、歌うことに心からの幸せを感じてほしい、そう願ってレッスンを行なっています。
これからも進化をし続けていきたいと思います。