2大ボイトレメソッドを比較

ボイストレーナーのJUNです。

今回はボイトレメソッドを比較しつつ、メリットとデメリットを考えてみました。

日本における現在のボイトレ事情が少し分かる内容になっていると思います。

2023年現在の日本のボイトレ

ひと昔前までボイストレーニングといえば、『お腹から声を出して』、『声を頭に響かせて』、と言った感覚に頼ることが多く、トレーナーと生徒の間での感覚の共有が難しかったり、トレーナーの経験に依る内容で相性が合わないために自分には向いていないとレッスンを辞める、あるいはトレーナーを探し回ると言ったことが多かったと思います。

そういったことは現在でも多くあると思いますし、感覚に頼ること自体が悪いことでもありません。

ただ、ボイストレーニングの目的が声をより自由に自分らしく表現できるようになることだとすれば、それを叶えていける、しかも遠回りせずに最短でできるならそれに越したことはありませんよね。

近年、海外のメソッドを日本に取り入れた先駆者のおかげもあり、音声学的、科学的、解剖学的なメソッドで無駄なく、確実に効果を生むレッスンが行えるようになってきました。

ボイストレーニングはスポーツを習う感覚に近いと思います。

何かできるようになりたいと思ったら、習得のために反復していく作業は必要です。

しかし、その無駄のない反復作業が効率的に行えれば、『5年習ったのにあまり上達しなかった』みたいなことはまずないといえます。

また、反復作業からクリエイティブで自由に表現をするということが行える段階に入れば、もはや発声を意識して歌うことが少なく声は無意識に出せる感覚に近くなってきます。

そう言ったことを叶えやすくする、ボイトレの2大メソッドがあります。

いま主流となっている二大メソッド

ハリウッドメソッドとして有名なSLSともう一つはEstilです。

SLSはセス・リッグというボイストレーナーが元となりメソッド化されたものです。

経歴は今回は省きます。

Estilはジョー・エスティルという方が元となりメソッド化されたものです。

ボイトレに詳しい方は、あれ、フースラーは入らないのか、という風に思うかもしれませんが、後ほど触れます。

また発声マニアの方はチェザリーは、リードは等あるかもしれませんが、理論を構築した先駆者に敬意を表しつつ、今回は割愛致します。

SLSのメリット・デメリット

これは個人の意見が大いに含まれますが、SLSはエクササイズは、ボイトレ初心者でも、プロのシンガーでも、同じエクササイズでも取り組み方によって、それぞれの能力に応じて効果を出すところが最大のメリットだと思います。

エクササイズは正しく取り組んだ方が効果的であるのは間違いないですが、声の発達や意識、感覚が高まっていなくても取り組んでいることで自ずと効果を出すことが多いです。

イメージとしては歯の矯正をしているような感じで、ちょっとずつ声を色んな方向に振りながら段々とベストなバランスに寄せていくことを繰り返していく感じです。

逆にいうと自分にミスマッチなエクササイズを行うと逆効果になる可能性も否定できません。

そして、広い音域で安定した発声を身につけることが可能だと思います。

いわゆるミックスボイスを身につけるには一番適しているのではないかと思います。

デメリットとしては、発声は美しくなり安定するのですが、様々な歌唱表現の幅を広げるという意味では万能ではない印象です。

声の音色を変える、あるいはクリーンな声だけでなく、少し歪んだような声、汚れたような声(表現で必要な時もありますよね)を出すようなエクササイズは見当たらず、推奨もされていない印象です。

また、エクササイズそのものはどんな声の人にも効果的でありながら、声の機能の特定の部分をピンポイントでトレーニングするといったきめ細やかさに欠ける印象です。

エスティルのメリット・デメリット

メリットは発声器官をパーツごとに動かせるようにしながら、それらを組み合わせて、様々な声を出していけることが最大のメリットです。

発声器官のそれぞれの働きの度合いを調節できるようにしていくことで、表現の幅が多彩になります。

繊細さや集中力が必要ですが、同時に人間の日常の中で起こる感情と声を結びつけて本質に迫る側面もあり、イメージしやすい感覚での取り組みやすさもあります。

デメリットは音域を広げるとか、ミックスボイスを身につけると言った視点ではトレーニングをしておらず、例えば中音域が苦手、声がひっくりがえる、声を張り上げてしまう、声が息っぽくなってしまうといった時にどのようにトレーニングするかといったメソッドが構築されていない印象です。(それらに有効なエクササイズがEstilのエクササイズにあるにもかかわらず!)

おそらく、自分の音域や声の特性に合った歌のレパートリーを選ぼうね、という前提からくるものだと考えられます。

SLSからエスティルへ

これも個人の感覚ですが、SLSのメソッドで声のガチャガチャした部分をある程度整えていった後にエスティルのメソッドを取り組むとより効果的で、エスティルが先だと安定した歌唱に結びつけるのが難しかったのではないかといった印象があります。

まず無理のない歌唱を実現するために体系化されたメソッドとしてはSLS、より表現の可能性を広げるという意味でエスティルといった風に補いあっていけると両メソッドそのものはどちらも素晴らしいと感じます。

私が行うレッスンでは両方の要素を生徒の目的に応じて取り入れています。

いずれにしてもどちらも自己流ではなくボイストレーナーの元で正しく取り組む注意が必要なことは共通しています。

フースラーが画期的だったこと

SLSとエスティルとはまた違う有名な発声教師がいました。

フレデリック・フースラーです。

彼の功績は喉頭懸垂機構を発見したことです。

声帯が収まっている喉頭(ざっくいうと喉仏)が四方の筋肉で引っ張られ、宙に浮いているように存在していることで、出したい声によって声帯やその周辺の筋肉と共に働くことにより、声が自由に開放的になることを明らかにしたことが、発声理論における大きな功績といえます。

しかし、メソッドという点においては、確立しているかというとそう言い切れないのではないかと思います。

ただ、指導者としてはその理論が頭に入っていることで、SLSやエスティルのエクササイズを行う時のガイドになってくれる意味で重要な概念だと思います。

余談ですが、かつて私のところにフースラー研究の第一人者の元でレッスンを受けていたという方が発声障害になってレッスンにいらしたことがありました。

もちろん、その指導者が間違っていたとは言い切れないですが、トレーニングが声の発達に応じた段階的なメソッドになっていないことも一因なのではないかと推察されます。

SLSとエスティルに足りないもの

発声を考える時、一般的には発声器官と呼吸器官に注目しますが、人間の身体全体から見た時に、声にどう影響を与えるかという視点については両メソッドとも確立されていません。

例えば身体の筋肉には始まりと終わりがあり、筋肉が働く時、固定されている始まりの方に、終わりの筋肉が引き寄せられます。

喉頭は筋肉の終わりが集約されている場所になっています。

逆にいうと始まりを辿っていくと骨盤まで繋がっていきます。

大きい声を出すとか、お腹から声を出す、という意味ではなく、声の元となる声帯が収まる喉頭は全身に繋がっているという視点を持つことで、全身のバランスを保てることが、声を出すときのパフォーマンス向上にも影響を与えるという視点は時として大きな意味を持ちます。

また、筋肉そのものは意識をすると強張る傾向にあります。

例えば歩くときに、足の筋肉を意識して歩くとぎこちなくなると思います。

筋トレは筋肥大(筋肉を大きく)することに大きなウェイトを占めていると思いますが、ボイトレはどちらかというと、歩く動作のように声を無意識的に自由に働かせることを目指します。

発声の事を意識するあまりに歌いにくくなることがあります。

そんな時に視点を変える、意識をズラす事が、必要になってきます。

そういったことを念頭に置きながら、SLSやエスティルのエクササイズを扱っていくとより効果的になってくるのではと思います。

メソッド化され効果が実証されているボイトレはレッスンを受ける価値が非常に高いと思います。

また、どれかのメソッドに固執せずに、それらを時間とお金をかけて身につけてきた人間によって正しく、かつ柔軟に取り扱えるレッスンはお得でしかないという自負を持ってレッスンをしています。

より効率的に声の悩みを解消するレッスンが提供出来るように更に力をつけて行きたいと思う日々です。

ボイストレーナー JUN

声に何度も泣かされた過去を持ち
生徒と心から歌う喜びを共有する日々

大手の音楽教室で講師経験後に独立。
入会率と継続率の高い優秀講師としてレッスン手法をセミナーで紹介される。
中学・高校の音楽科教員の経験からレッスンのわかりやすさというところでの評価を受けている。
これまでに、現役シンガー、ボイストレーナー、音大生(音大入試)、オーディション対策など、数多くの人数を指導。また企業からの依頼を受けアーティスト育成も行っている。

レッスンしてきたことのあるジャンル:
J-POP・洋楽・PopRock・ミュージカル・
Classic・民謡(発声指導のみ)

東京都言語聴覚士会準会員・中学高等学校音楽科一種免許保有
修了講義:”Belting &Effect” ”Motor Lerning Theory in Vocaltraning” “Classical Singing” “Collaborative work with Vocal coach and SLP”

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