ボイストレーナーのJUNです。
今回は正しい声の出し方について考えて行きたいと思います。
正しい声の出し方というのがあるとしたら、どんな出し方でしょうか。
お腹から声を出す
響かせて出す
ハキハキ話す
そんな事が思い浮かぶでしょうか。
良い声の人の印象にこれらは当てはまるのかもしれませんが、どちらかというと感覚的な表現ですね。
音声学的に正しい声
では、音声学的にはどうでしょうか。
それは
息と共鳴と声帯の3つの働きが1対1対1のバランスの時が声にとって健康かつ自由で、自分らしい魅力のある声になると言われています。
発声が正しいとこの3つのバランスを保ちながら低音から高音にかけて一貫して音量が変わらずに行ったり来たりできます。
よく大きな声はお腹から出すと言われます。
息をたくさん使った方が大きな声が出る気がしますね。
もし、たくさん息を使ったとしてもその時に声帯の働きが弱かったり、共鳴の使い方が悪いと力んでしまったり、あるいは抜けた声になったりします。
共鳴がなぜ大事か
共鳴は主に声帯から口の奥の部分と口の奥から唇までの2ヶ所の動きによって声の音色や大きさは変化します。
声帯から口の奥の部分の共鳴をどうやって調節するか
細かく言うと様々ありますが、ざっくり言うと、喉仏(喉頭)の上下で変わります。
声帯が収まっている喉仏の位置が低くなると、太めでこもったような声が出しやすいです。
喉仏が高いと平べったく、場合によってはキンキンしたような声になります。
口の奥から唇までの共鳴はどうやって決まるのでしょうか。
それは口の開け方と舌の位置です。
特に舌の位置は共鳴に大きな影響を与えます。
舌は言葉を話す時に動きます。
日本語ではアイウエオの5つの母音があり、母音によって共鳴が変わります。
その特質を利用して、歌唱では高音を出しやすくしたり、低音を出しやすく、或いは明るい声や深い声など声の色を調節出来ます。
よく歯医者で歯を削る機械の高い音を『キーン』とか、お寺の鐘の低い音を『ゴーン』いいますが、歌でも実際に高い周波数帯域はイ母音が得意で低い周波数帯域はオ母音が得意です。
正しい声は、息と共鳴と声帯のバランスで決まると述べましたが、共鳴に関しては喉仏の位置が声を出していない時のあたりがニュートラルで、その位置から極端に上がったり下がったりしていないほうが声に負担がなく理想に近いと言えます。
例えば声優の方やモノマネをされる方は喉仏の位置や舌の位置、口の開け方で声の音色を操作することに長けているといえます。
また、歌う声に欲しい音色を意図的に極端にして作る場合もあるかもしれませんが、それが基本の声になってしまうと声の自由度が損なわれる可能性があるといえます。
例えば、オペラ的な豊かな声を出そうとして、喉頭(喉仏)を極端に下げ続けていると、やがて高音は出なくなります。
さらにその出しにくさをカバーしようと他のところでバランスを取って解決しようとすれば、もう声は迷路のように出口がわからなくなる…なんてこともありえます。
トレーニングにおいては意図的に喉頭の位置を動かすような声を出すことがありますが、その動きをすることでバランスの悪い部分を整えることができるため利用します。
声帯の働き
次に声帯についてですが、例えば息が続かないのは肺活量が足りないからだと思う事があるとします。
しかし、これも疑う余地があります。
肺の門番は声帯です。
例えば、重い荷物を持ち上げる時に息を止めますよね。
これは身体の内圧を高める事で力みやすくするためですが、その時は声帯が閉じる事で息を止めています。
声帯は完全に閉じると声は出ませんが、逆に閉じ方が弱いと息が必要以上に漏れ出ている可能性があります。
息が漏れ出るだけでなく声も弱々しいものとなります。
つまり声を出すのに適切な閉じ方ができているかが重要です。
喉に力を入れずにリラックスして声を出しましょうと言われることもありますが、声帯は適切な力で閉じないと声は出ません。
そのため閉じすぎている人は弛める事を、閉じ方が弱い人は閉じる練習をします。
つまり一人一人違うため、グループなどの集団で一斉にボイトレすることは難しいことがわかります。
息はたくさん必要か
次に息ですが、ここまでの説明でお分かりの通り、息をたくさんはいたら声がデカくなるわけではありません。
やはり適量です。
声がコントロール出来る自由な状態かどうかは、自分の持っている歌唱で使う音域の中で、話し声くらいの音量で声を出せるかどうかを基準にすることです。
もちろん話し声そのものに問題がある場合もありますが、それについてはまたの機会で述べます。
歌う時に大きい声しか出せない、あるいは高音に向かって叫んでしまう場合、多くは息と声帯の働きが過剰になっています。
抜けたり弱くなる場合もバランスが悪いと言えます。
息が低音から高音まで同じ量で出せるかを確認するわかりやすい方法があります。
それはリップロールです。
高さによって息の量が変わらないかを確認するためにわかりやすいと言えます。
実は母音も大事
息と共鳴と声帯の三つのバランスと言いましたが、これにもう一つ加えたいことがあります。
それは母音です。
共鳴と重なる部分もありますが、母音として考えることも大切です。
例えばア母音が高さによってエっぽくなったり、オっぽくなったりする場合もまたコントロールが難しい声の可能性があります。
同じ母音の位置で低音から高音までいけることは正しい発声の条件と言えます。
高い声に向かって張りあげるとき、例えば『ア』で歌ってるつもりが『エ』になっていたりすることがあります。
高さによって母音が変わってしまうことが発声の不具合のバロメーターになることがあります。
おわりに
正しい発声は魅力的な声でもあります。ですが、発声的には必ずしも正しいと言えなくても魅力的な歌を歌う方もたくさんます。
理想は発声のベースが正しいポジションにありながら崩すことができることだと思います。
それはあくまでも理想であって、発声に囚われて表現に自由が損なわれたら本末転倒かもしれません。
自分らしい声ってなんだろうということをいつも大切にしながら正しい声を手に入れて長く歌い続けていきたいですね。