発声と力み

ボイストレーナーのJUNです。

今回は力みについて記事にしてみました。

ボイトレというとどんなことをイメージするでしょうか。

お腹から声を出そうと言われたことがある人はかなり多いと思います。

デカい声は腹から?

お腹から声を出すとは一体どういうことでしょうか。

なんとなく気合が必要なイメージもありませんか?

一般的には大きな声で歌うことが良くて、そのためには腹筋が必要という考えが定着していますね。

しかし、少し考えると気付きますが上手なシンガーは、曲の最初から最後までずっと張り上げていることは少なく、柔らかな声が魅力的な方も沢山います。

前提として、『声がデカい=上手い』では必ずしもないことは理解しておきたいところです。

確かにパワフルな声はかっこいいですし、私も好きです。

さて、話を戻して。

大きな声が出ないのは腹筋が弱いから。

そう思っている人は少なくありません。

果たして本当にそうなのでしょうか。

私たちは日常生活の中で立ったり座ったりするような動作の時にも腹筋を使っています。

健康な方の多くは腹筋に関してはそのくらいの筋力があればまず問題なく豊かな声が出るようになるといえます。

声の豊かさは腹筋で決定されるわけではなくそれ以外によるところが大きいのです。

私は『声の豊かさ』とあえて書きました。

物理的な声の大きさと豊かさは聴こえ方が違う場合があります。

声は充分大きいはずなのに、いまいち存在感がないように聴こえるとき、やはりどこかを過剰に緊張させて効率の悪い発声をしている可能性があります。

逆に決して声量そのものはなくても豊かに聴こえる場合は、バランスのとれた発声が出来ていることが多く、聴いていて心地の良い豊かさがあります。

話がまたそれましたが、大きな声、豊かな声を出したいとき、全体を構成する1つの要素として腹筋が関係するということであって、必要な筋力は健康な人であればまず満たしていると考えて良いです。

そして大切なことは、腹筋を鍛えて筋肉を大きくすることと腹筋を機能的に使えるようにすることは別の作業だということです。

腹筋が立派なら大きな声で歌えるというならば、アスリートの皆さんは立派な歌手になれます。

脱力すれば良い声が出る?

では反対に力んでいるからといって力を抜こうとして、全身の脱力をしたら歌えるでしょうか。

これも経験のある方ならお分かりいただけると思いますが、答えはノー。

ということで、もう少し筋肉について考えてみたいと思います。

例えば健康な身体であれば足の筋肉を意識せずとも歩くことが出来ます。

逆に足の筋肉を意識して歩くとどうでしょうか。

試しにやってみてください。

きっと急に歩きにくくなるはずです。

筋肉そのものを意識した瞬間、急に動きが悪くなります。

よく筋トレでは、鍛えたい部位を意識することが大切とも言われます。

確かにそれによって筋肥大は起こしやすいかもしれません。

それがトレーニングの目的によっては必要な場合もあるでしょう。

ファッションとしての筋肉であれば良いかもしれませんが、何かの競技で使うにはそのままだと使いにくいと思います。

少なくとも歌唱では今ある筋肉を最大限に活かして機能的に効率よく使えることをトレーニングする方が有効です。

もし歌唱のために筋トレをするにしても機能的に使えるようにしてからでも充分です。

機能的というのを別の言い方にすると正しい体の動かし方を身につけると言えますが、それは筋トレのように筋肉がついたという目に見える実感がわかないので気持ちは盛り上がりませんが、声が楽に出るという感動は味わえます。

機能的に効率よく

まず大前提として効率よく力を出すには力がどいう働きかを理解しておく必要があります。

古典的な物理学の考えでは、力=質量×加速度 です。

ここで注目したいのは、力はどこかに向かって加速していく時に生まれるということです。

歌唱に置き換えると声帯が元となって生まれた声=音声は、外の空間に向かっていきたいわけです。

抽象的に思われるかもしれませんが、野球やサッカーを思い浮かべるとわかりやすいと思います。

ボールを動かすにはボールに力を伝える必要がありますね。

つまり腕や脚に力を入れたとしてもボールに上手く伝わらなければ意味がありません。

声に関しても同様のことが言えます。

歌の場合は空間がボールに相当します。

ここでようやく今回の本題にたどり着きますが、実は歌の場合はこのイメージだけでも力みが解消される可能性があります。

意識するところを変えることで声の自由度も豊かさも変わる可能性があります。

試しにわざと筋肉に意識を向けたり、空間に向けたりと、変えながら声を出すとわかりやすく面白いと思います。

力むのは都合がいい

現実的には、力みの多くはアンバランスから生まれていると言えます。

顎に力が入る、あるいは、舌に力が入るといったことは、そのことによって何か都合が良いことがあるからかもしれません。

しかし、それは決して自由とは言えませんね。

自由も自由になって初めて実感するので難しいのですが・・・

どこかが過剰に力んでいるということは、そうすることで働きの悪い部分を補っていると言えます。

働きの悪い部分を良くしていくことが力みの解除につながります。

力みというと、力が全て悪いものという極端なイメージになりがちですが、そもそも声は声帯が閉鎖しないと出ないのでそこには力が必要です。

なので力みは過緊張と言い換えた方がイメージとしてふさわしいかもしれません。

つまり、必要以上に緊張しているということです。

例えとして適切とは言い切れないですが、歌う上での過緊張は自転車に乗れるようになるまでの補助輪のようなところがあって、ボイトレは歌う時の補助輪を外していく作業にも似てます。

パワーがあるのはいいこと

よくあるのが、高音に向かって声を張り上げてしまうことですが、張りあげるパワーがあるのは、とても健全なことです。

このパワーを必要に応じてコントロールできるようにしていくのがボイトレです。

これを拡大解釈すると、発声障害に見られる過緊張も心理的な要因との関係が認められることが多いですが、何かを補おうとした結果コントロールができなくなっていると解釈も出来ます。

声は元々の骨格によるところも大きく生まれ持った身体で決まる部分がありますが、それを自分で大切にしてあげることが声を自由にする上でも大切です。

それが他の誰でもないあなただけの個性であり魅力でもあります。

補助輪を外して生まれ持った本来そなわっている唯一無二の声を自分の中から引き出していけたら最高です。

唯一無二の声で自分らしく輝く日々を送っていきたいですね。

ボイストレーナー JUN

声に何度も泣かされた過去を持ち
生徒と心から歌う喜びを共有する日々

大手の音楽教室で講師経験後に独立。
入会率と継続率の高い優秀講師としてレッスン手法をセミナーで紹介される。
中学・高校の音楽科教員の経験からレッスンのわかりやすさというところでの評価を受けている。
これまでに、現役シンガー、ボイストレーナー、音大生(音大入試)、オーディション対策など、数多くの人数を指導。また企業からの依頼を受けアーティスト育成も行っている。

レッスンしてきたことのあるジャンル:
J-POP・洋楽・PopRock・ミュージカル・
Classic・民謡(発声指導のみ)

東京都言語聴覚士会準会員・中学高等学校音楽科一種免許保有
修了講義:”Belting &Effect” ”Motor Lerning Theory in Vocaltraning” “Classical Singing” “Collaborative work with Vocal coach and SLP”

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